2024年春、鹿島区に新しいカフェが誕生します。お店を始めるのは、東京から引っ越してきた松野和志さん・美帆さん夫婦。カフェを併設するご自宅を訪ねると、全国各地に出かけながら集めたという古道具が並んでいて、美しく癒される空間がありました。こだわりは買うだけでなく、壁面塗装や作業台づくりなど、DIYして実現したものも多くあるそう。お店づくりにも通ずる、おうちのこだわりを聞きました。
カフェ開業を視野にいれた物件探し
Q.どのような条件で物件を探しましたか?
和志さん:
二人で「いつかカフェをやりたいね」というのを結婚前から話していたんです。山の中にポツンとある古民家など雰囲気のあるお店をイメージしながら、物件を探し始めました。引っ越してすぐに開業するというより、まずは自分たちが暮らす家をと考えていたのですが、南相馬市は起業支援制度が充実していることもあり、自宅兼店舗のかたちも検討するようになっていきました。事業計画をつくる中で、固定費をなるべく抑えようと思い、家賃もなるべくかからない物件を希望するようになりました。
美帆さん:
空き家バンクを見たり、移住準備をする中でお世話になるようになった方に紹介してもらったりしながら、市内のさまざまな物件を見に行きました。でも、物件の状態に対して家賃が高いなど、思うような場所とはなかなか出会えなくて。アパートなどを借りることもできたとは思うのですが、自宅と店舗を別にすると家賃の支払いが二重になると思うと、なかなか決めきれないところもありました。
Q.今の物件との出会いは?
和志さん:
仕事でお世話になっている方に紹介していただきました。今住んでいる物件以外にも、昔アイスクリーム屋さんだった場所に連れて行ってくれるなど、カフェをやりたい僕たちに合うような物件を親身になって探してくれてありがたかったですね。
美帆さん:
決め手になったのは、家に倉庫のような建物がついていたこと。倉庫を改装すれば、テイクアウトオンリーの焼き菓子屋さんをやったり、製造所にしたりできるんじゃない?と話も弾んで、いろいろな方法を想像することができました。
Q.契約はどのように結びましたか?
和志さん:
不動産会社さんに、大家さんと仲介していただくかたちで賃貸契約を結びました。そのおかげで、家賃の金額交渉など、少し言いづらい部分については、大家さんと直接やり取りすることなく落ち着けることができました。自分たちの好きなように改装することを考えていたので、原状復帰なしの条件で借りています。
完成イメージから理想の姿に近づけていく
Q.初めてこの家を内見したときはどんな状態でしたか?
和志さん:
東日本大震災だけでなく、2022年3月に起きた福島県沖地震のダメージもあり、壁が剥がれていたり、場所によっては窓ガラスが割れてしまったりしていたところもありました。
ただ、ひどい状態ではあったものの、インテリアの置き方やDIYで空間はどうとでもできるだろうと思いました。以前住んでいたアパートは築50年くらいで、トイレやお風呂が狭かったり、ちょっと暗かったりしたのですが、好みのインテリアを置き、DIYを頑張ることで、雰囲気をがらりと変えられたんです。その経験があったから、新しく作るイメージができました。
Q.リノベーションのデザインは、どのように考えましたか?
美帆さん :
まずは夫婦でイメージを合わせていきました。特に参考にしたのは、雑誌です。お気に入りのお店が特集されているのを見ながら「こういうのがいいね」とよく話していました。
和志さん:
その後、内見した時に撮ってきた写真を材料にしながら「Home Design 3D」というアプリを使って、自分たちで間取りを考えました。ここにキッチン置いたらどうかなとか、水道はこっちから引っ張ると良さそうだねとか。建築に関する知識がなくても使えるものなので、大工さんとイメージを共有するのによかったです。
Q施工業者とはどのようにコミュニケーションをとりましたか?
和志さん:
「構造上の問題がなければ壁を抜きたいです」といった感じで相談しながら、建物の安全性の部分はお任せし、デザインについては自分たちの希望を伝えていきました。
難しかったのは、好みのテイストを伝えること。僕たちがお願いした業者さんは、経年劣化した壁紙を張り替えたり、設備を新しくしたりする、一般的なリフォームを得意とされる方でした。そのため、最初の提案でいただく壁紙やパーツは真っ新で新しいものが多かったんです。ただ、古いものが好きな僕たちとしては、壁はムラがある方がいいし、ピカピカの釘よりちょっと錆びているくらいでもちょうどいいという思いがあってその感覚をなんとか伝えたくて、雑誌や写真をたくさん見せたり、自分で探した資材を使ってくださいとお願いしたり、一つひとつ、細かくオーダーを重ねていきました。
美帆さん:
約10カ月間、工事をしてくださったのですが、終盤には私たち好みの提案をしてくださって、「いいですね!」と話が盛り上がる関係になれたんですよ。イメージのすり合わせは簡単ではなかったですが、伝わればプロの技で応えてくれる。伝えることを諦めなくて良かったなって思います。
私たちはとにかく早くこの家で生活したかったので、店舗の工事が終わるのを待たず、住居スペースができたタイミングで引っ越してきたんです。暮らしてみると、「窓の建付けが悪いから変えたい」など、生活を始める前は気にならなかったことを直したくなることもあって。そんな時に、工事をしている大工さんに声をかけて調整してもらうことができたのは助かりました。
和志さん:
ただ、暮らしてからも工事が続いていると、毎日大工さんの出入りもあります。僕たちは気にならなかったのですが、人によっては気まずさを感じるかも。引っ越しのスケジュールを調整するなど、お互いが気持ちよく過ごせる工夫があってもいいかもしれませんね。
居心地のいい台所で長い時間を過ごして
Qリノベーションで特にこだわった場所を教えてください。
和志さん・美帆さん: 台所ですね。
美帆さん:
もともと付いていたシステムキッチンや棚は全部とってもらって、自分たちで選んだものを置いています。シンクは、リサイクルショップで業務用のものを買ってきました。収納の方法など、好きな料理家さんのキッチンを参考に真似しています。
和志さん:
2人とも料理が好きというのもあるのですが、家のつくりから見ても、台所が一番光が入って気持ちいいんです。最近ダイニングテーブルを置いてからは、食事の時間に限らず、パソコン作業をしたり、打ち合わせをしたり、ほとんどの時間をここで過ごすようになりました。
Qこれからリノベーションする方に、メッセージをお願いします。
和志さん:
新築と違って、ゼロからの設計はできないけれど、すでにある枠組みを使って好きなようにできるのがリノベーションの良さだと思います。家が新しいと、ネジ一本打つのも気が引けるかもしれません。でも、空き家物件はすでに使い込まれているので、躊躇なく手を加えられます。
また、完成形は具体的であればあるほど、理想の空間づくりができると思います。工事の過程で「先に言ってくれればできたのに」と言われることが結構ありました。頻繁に現場を見に行くことで、早めに気づけることもあったはず。店舗はその教訓を活かして、住居以上に大工さんと一緒にリノベーションした分、思うような空間づくりができました。
美帆さん:
私たちもそうですが、リノベーションは少しずつ進むもの。だからこそ、愛着もわいてくると思うので、その過程も楽しめればいいんじゃないかと思います。