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アオスバシ 森山 貴士さんのプロフィール写真

アオスバシ 森山 貴士さん

    2014年に南相馬市に移住しました。ITエンジニアをフリーランスでする傍らで地域の生活に寄与できるようなまちづくりに取り組んでいます。アオスバシは3件目のリノベーションとなりましたが、規模が大きい分一番大変でした。 その分面白い場所にもなっていると思いますので、みなさまぜひお越しくださいー!!

    JR小高駅から徒歩3分の場所にある「アオスバシ パンとカフェ」(以下、アオスバシ)。元寿司屋をリノベーションし、2023年7月にオープンしました。日々、小高区内外に暮らすさまざまな人が集まり、飲食やイベントを楽しんでいます。小さなお子さんからプロフェッショナルな人たちまで、たくさんの人たちと一緒につくったという店内で、空き店舗を活用することにした理由やお店がオープンするまでの道のりを、オーナーの森山貴士さんに聞きました。

    昔から地域にある建物で新しいことをしたい

    Q.空き家を活用して、お店を始めたのはなぜですか?

    小高での活動を始めて約7年が経ちました。ここは東日本大震災で被災した地域なので、震災以前の暮らしを取り戻すことも大事だと感じています。地元の人たちがつくってきた暮らしや見てきた景色を大切にしたくて、新築ではなく空き家を活用することにしました。

    私たちがリノベーションした「青葉寿司」は、消防団など地域の人たちが集まりでよく使っている場所だったようです。3階建てで、大きな店看板があり、どう考えても目立つ存在。「国道6号線から青葉寿司の看板が見えると『帰ってきた』という気持ちになる」といった声もよく聞きます。見慣れた風景は地域のアイデンティティでもあるので、残していく方法を考えました。

    国道6号線から見える看板

    Q.家主さんとはどのように出会いましたか?

    友人に紹介してもらいました。青葉寿司は、南相馬市の空き家バンクにも登録されている物件だったんですが、値段が要相談だったり、別の方が借りることを検討していたりする状況でした。どうしようか悩んでいるところ、家主さんと直接連絡がとれるかもという友人がいたんです。

    家主さんは、南相馬市を離れて生活していて、南相馬に戻って生活するのは難しいけれど、大切にしていたお店を取り壊すこともできずにいるような状況で、当時は迷いをお持ちでした。でも、「地域の場として活用してもらえるなら」とお会いしたその日から話が進んでいきました。

    Q.契約はどのように結ばれましたか?

    書面で内容を確認し、5年間の定期借家契約(※)をしました。


    契約を結ぶ時には、家賃も含め、お互いが気持ちよい内容にすることが大事だと思います。

    当時、家主さんは地元に戻ることは難しいものの、完全に手放すことには迷いがありました。定期借家であれば、更新のタイミングでどうするのか再度考えられます。家主さんが地元に戻り、何かを始めるのであればお返ししますし、引き続き応援していただけるのであれば、再度契約を結び直すこともできます。

    ただ、壁を抜くなど大幅なリノベーションを予定していたので、一般的な内容に加えて、「原状回復なし」という条件の追記をお願いしました。そうはいっても、家主さんにとって大切な場所であることは変わりません。残したい場所や雰囲気などは最初に伺ったうえで、リノベーションを進めました。

    ※定期借家契約・・・同じ物件に住める期間が決められている賃貸借契約

    リノベーションが始まったころの様子。入り口から入ってすぐのところにカウンター
    カウンターと寿司ネタのメニューはそのまま残っています

    自分がつくったことを感じられるリノベーション

    Q.リノベーションの手法をとったのはなぜですか?

    正直、一番は費用を抑えたかったからなのですが(笑)いろんな人に参加してもらうことで、「アオスバシはみんなでつくった」という実感を共有できたらと考えていたんです。

    大広間になっていた2階

    リノベーションの始まりは既存の壁や床を剥がすところから

    例えば、壁塗りは3歳くらいの小さなお子さん、研究で小高を訪ねていた大学生、いつもお世話になっている行政区の方たちなど、本当にたくさんの方と一緒にやりました。参加してくれた方は来店すると、「ここ私が塗ったところだ」といったように、自分が作った感じを持ってくれるんです。一緒にこの場をつくった仲間と感じられたり、自分でもできるんだと思えたりすることは、地域をつくっていくことにもつながると思うんですよね。

    また、私たちは多くの箇所をセルフリノベーションしました。自分たちでやっていれば、現場の状況に合わせて変えていくことは自由です。設計変更にかかる追加の費用も発生しません。みんなでいろんな知恵を出し合い、変化に対応できるようになりました。

    リノベーション後の店内。テーブルや壁面棚などもDIYで作製

    Q.さまざまな方と一緒にこの場をつくったのですね。業者に頼んだのは、どんなことでしょう?

    まず設計を、千葉県にある設計事務所にお願いをしました。従業員の方が、学生時代に小高に足を運んで研究をしていたご縁があったんです。青葉寿司を借りてすぐに現場に来ていただき、ここでやりたいことを話しながら、どんな場所にするか、どんな建物にするかを一緒に考えてもらいました。

    リノベーション参加者がアイデアを付箋に貼っていった

    材料調達は、小高にある鍋屋金物店さんを中心にお願いしました。一級建築士の資格を持っているご主人は、リノベーションの進捗状況をみながら相談にのってくれました。地元業者さんを紹介してくれるなど、鍋屋金物店さんがいたからこそプロジェクトが実現できたと切に思います。

    そのほかにも、資格が必要な電気工事や、コンクリート塗りや外壁など、専門的な知識がないとトラブルや大きな利便性の問題が出るところは職人さんにお願いしました。

    Q.リノベーションをすすめるうえで、大変だったことを教えてください。

    新築と違い、建物がまっさらじゃないことです。壁を剥がしてみたら、建物の構造が想定外だった、なんてことがままありました。そうした場合、設計の見直しが必要になりますが、千葉県にいる設計事務所のみなさんとリアルタイムで現場感を共有するのは、なかなか難しかったですね。

    あとは、新規でお願いする施工業者を探すのにも苦労しました。情報が少ないうえに、施工業者を選ぶ経験って人生で多くないから良し悪しがわからないんです。ミライエでは施工相談にのってもらえるそうなので、頼るとよいと思います。

    地域の人と関わり合って活動を育む

    Q今後、アオスバシをどんな場所にしていきたいですか?

    カフェスタッフをはじめ、地域で暮らす人たちのチャレンジを持ち込める公民館のような場所でしょうか。地元の人、移住者、訪問者、大人、子ども……さまざまな人が関われる工夫を重ねたいです。やりたいことができたり、欲しいものを手に入れたりする環境は自らつくれるんだと感じられる場所になれたら嬉しいです。

    お正月飾りをつくるワークショップ。地元のお母さんたちがたくさん集まりました
    マグカップに絵柄シールをつけるポーセラーツアート体験にはお子さんも

    Q.リノベーションを検討している方へのメッセージをお願いします。

    現実的な話ですが、予算は、最初の見積もりから1.5倍くらいになることを想定するのがよいと思います。工事も押してしまうことが多いので、期日が決まっている場合は余裕のあるスケジュール組をおすすめします。

    想定外が当たり前だからこそ、困ったときに頼れる人が周りにいることは大事です。空き家を活用してやりたいことを実現しようと、都市部から移住する人もいると思うのですが、最初の一歩から挑戦にふりきらず、地元のみなさんとの関係性をつくる回り道をしてみてもいいんじゃないでしょうか。関わり合いの中で、やりたいことのアイデアが深まったり、「この大工さんにお願いしたい」といった出会いがあったりもします。

    リノベーションも含め、一緒に活動をしていきたいと思える人とものごとを進められると楽しいと思いますよ。

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