ミライエ

Profile プロフィール

本田奏さんのプロフィール写真

本田奏さん

    東京都出身、都内の大学で写真学科を専攻。フリーのカメラマンとして活動中におだかぐらし体験ツアーに参加。小高の人々の魅力や暮らしやすさを実感し、夫婦で移住を決意。2023年11月より南相馬市地域おこし協力隊として、地域の各種イベントの撮影・取材・広報誌の発行、SNS運用での小高の魅力発信や移住促進事業に携わっている。

    家の状態も、家主の想いもさまざまある空き家。家主と家を探す人の双方が納得できるオリジナルな提案ができれば、もっと空き家の流通が進むんじゃないかーーー。

    そんな考えで、ミライエが2024年度に取り組んだのが小高区の「三浦写真館」こと三浦邸の契約でした。メディアでも取り上げられ、新しい写真館としてスタートを切ったことをご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。

    https://www.minpo.jp/news/moredetail/20250120121989

    今回の契約はミライエだけでなく、パートナー事業者の不動産会社・株式会社AXIS、ミライエの事業伴走者・omusubi不動産と一緒に取り組んだものでした。

    大切な物件だからこそ、契約がまとまるまでの道のりは平坦ではなかったようです。約半年の時間をかけて空き家のバトンが渡されるまでの日々を、各社の担当者が振り返りました。

    (聞き手・文・写真 蒔田志保)

    今回の対談は、AXISの菅野豊さん(左)、omusubi不動産の髙橋隆幸さん、遠藤実奈さん(オンライン参加)ミライエの熊田めぐみさん(右)で行われました。

    新しい入居候補者の想いが、家を手渡すきっかけに

    ミライエ 熊田さん「小高区にフォトグラファーとして活動している本田奏(かな)さんという女性がいます。彼女から『三浦写真館を、新たに写真館として使えないか』とお問い合わせいただき、今回の取り組みが始まりました。

    ミライエでは空き家の実態調査をしているため、三浦写真館の持ち主である三浦邦夫さんの連絡先も把握できており、すぐに連絡できました。ただ、三浦さんにとって写真館はとても思い入れのあるもの。最初にお話を伺ったときには、売るつもりも貸すつもりもありませんというお返事でした」

    ミライエの熊田めぐみさん。不動産会社での勤務を経て、開所当初からミライエの事業に参加。

    三浦さんの想いを受け取ったものの、本田さんの熱意に触れていた熊田さんには彼女の挑戦を応援したい気持ちもありました。

    ミライエ 熊田さん「三浦さんに、本田さんのことを改めてお伝えしました。そうしたら『一度会ってみましょう』と言ってもらえて、現在は千葉県にお住まいの三浦さんが小高に来られるタイミングで、三者で面会する機会が持てたんです。

    そのときには、本田さんが撮った写真もご覧いただきました。彼女の腕前と意気込みに触れ、『この方になら写真館を任せてもいいかもしれない』と、三浦さんの心が少しずつ動いていったんです」

    三浦写真館にて、三浦ご夫妻と本田さんが面会したときの様子

    お金の話に修繕の分担……今回だけの「特約」を一つひとつクリアにしていく

    ここからは「三浦写真館」の現在の様子を、写真で一緒にお届けします

    その後、三浦邸の契約づくりが始まりました。

    目指したのは、家主の三浦さんに負担がかかりすぎず、事業を始める本田さんを応援できる内容。そのためには主な契約に加えて、今回限りの「特別な約束事」 =「特約」を設ける必要がありました。最終的に、特約の数はなんと12にもなったのだとか。

    例えば、本田さんは購入を希望しているものの、すぐに支払いをするのは現実的ではなく、購入の方法を検討する必要がありました。それから、10年以上空き家だった写真館には修繕が必要な箇所もあり、費用負担はどう分担するのかというのも要点になります。

    ただ、こうしたオーダーメイドの契約はミライエにとって初めて。そこで、DIY前提の物件取引などの経験豊富なomusubi不動産がリードするかたちで、契約の枠組みづくりが進められました。

    omusubi不動産 髙橋さん 「最初に提案したのは『段階賃料』です。最初から満額の家賃支払いは負担が大きいと考え、家賃を1年ごとに段階的に上げ、3年目に本来の金額にする仕組みを考えました」

    このような賃料設定は南相馬市内では前例がなく、地域では新しい挑戦でした。不動産業界でも珍しい賃料設定の形なのだそう。

    三浦さんから本田さんへ引き継がれたものの中には、撮影機材も

    ミライエ 熊田さん「次に特徴的なのは、違約金を取り決めたことです。『将来的に買いたい』と賃貸を始めたのに、途中で話が立ち消えになるケースが実は少なくないんです。そうした事態を防ぐため、3年後の購入について契約書に明記し、違約時の条件も設定しました。入居者審査も実施しています。

    所有者の善意だけに依存しない、責任ある契約の在り方になったと感じました」

    修繕に関しては、東日本大震災による損傷については三浦さんが、内部や外壁の経年劣化などは本田さんが負担することになりました。残置物(※)の処理も含めて一つずつ話し合い、落としどころを見つけていったと話します。

    修繕箇所の一部。柱がシロアリにやられていることが現地調査で発覚。

    今回は偶然にも、omusubi不動産の事務所と三浦さんのご自宅が近隣だったため、対面打ち合わせが可能だったことも、スムーズな進行につながりました。

    ミライエ 熊田さん「今はオンラインでコミュニケーションをとれますが、信頼関係を築く意味でも、不動産契約では特に、一度は直接会うことが大事だと思います」

    一方で、事業者間でのやり取りは、オンライン一本で繋げる分、回数が多くても、距離が離れていても、すれ違いや不安感はなかったと、みなさん口を揃えていました。

    (※)残置物・・・家の所有者や前の住人が、退去する前に残していった物品

    omusubi不動産のお二人には、今日もオンラインでご参加いただきました。

    チーム地元で、南相馬市の空き家と人をつなぎたい

    契約は作っただけでは終わりません。むしろ、その内容を理解して正式な書類作成をしたり、借り手と貸し手に間違いなく説明をしたりと、内容ができあがってから詰めていく部分に手間も時間もかかるといいます。

    omusubi不動産の力を借りながらここまで進んできたとはいえ、物件があるのは南相馬市。何より、今後南相馬市の物件で事業を進めていくからには、地元事業者とミライエが中心となって契約づくりができるようになりたいというミライエの目標もあります。

    初回の取り組みに手を挙げたのは、パートナー事業者の不動産会社・AXISの菅野さんでした。

    菅野豊さん。新卒で大手ハウスメーカーに入社以来、不動産業に携わりこの道13年

    AXIS 菅野さん「私が実務で携わるようになった時には、段階賃料や修繕にまつわる取り決めなど、特約も含めた契約内容はomusubiさんとミライエさんで考えられており、本田さんにも三浦さんにも話が伝わっている状況でした。

    契約について細かく内容を説明するのが、主な私の役割だったのですが、賃料や修繕に関すること以外にも、今回限りの特約がとても多かったんです。間違いなく説明できるように、内容を読み込んだり、omusubiさんに質問したりしながら理解を深めて、本田さんにお伝えしました。

    例えば、『てにをは』を誤解するだけで、借り主と貸し主で負担が逆になってしまう。そうすると後々大きいトラブルにつながるので、自分の思い込みがないようにかなり気を遣う部分です」

    特約のすべてが初めて目にする内容だったそうで、一つひとつが印象に残っていると話しました。

    本田さんと保証契約を結ぶ際の審査のほか、物件の修繕箇所の細かな現地確認、修繕にかかる見積りづくり、物件の登記なども菅野さんが担当。新規事業を支援する補助金の書類作成においても、本来であれば家主にお願いするところを不動産業者として肩代わりするなど、さまざまな仕事を担っています。

    ミライエ 熊田さん「不動産業って、1つの取引の中で何十と事務仕事が出てくるうえに、その全てに責任が伴う大変な仕事なんです。

    南相馬は家賃の相場が都市部と比べて安価であったり、売買価格も下がっている状況なので、市内の空き家がなかなか流通しない実情もあると思います。それでも、今回菅野さんが一緒に仕事をしたたいと言ってくれたのが、本当にありがたかったです」

    信頼と契約を結ぶのは、思いやりのあるコミュニケーション

    「物件を貸すだけだったら、簡単なんですけどね」と熊田さんがポロっとこぼします。

    借りたい・住みたい物件が見つかっている場合、スムーズに進めば1カ月かからないうちに契約できるそうですが、今回のケースは最初の問い合わせから契約内容がまとまるまでに約半年。それだけ丁寧に、借り手・貸し手に向き合って契約づくりが行われたのです。

    三浦さんは、時計店も一緒に営んでいたので、写真館にもさまざまな時計が残っている

    今回、特に難しかった点は三者それぞれ、どんなところにあったのでしょう。

    ミライエ 熊田さん「関係者の数が多いうえに、取り組み自体が新しい。自分も理解を深めながら説明する場面もあったので、難しかったですね。

    ミライエはつなぎ役なので、実務は担えないんですよ。契約がうまくまとまった今だから話せますが、途中で話が頓挫してしまったらAXISさんへの仕事依頼も破綻してしまう。そう考えると仕事をお願いする塩梅にも悩み、常に緊張していました」

    AXIS 菅野さん「熊田さんがそんなに緊張しているようには見えませんでしたけどね(笑)

    今回のケースでは、ミライエさんとomusubiさんが、本田さんと三浦さんとすでにやり取りを重ねていたところに自分が後から加わりました。普段は最初から関わることが多いので、状況や背景を理解する大切さや難しさも感じたように思います。一方で、すでに信頼関係が築かれていたので、安心してコミュニケーションをとれる心強さがありました」

    omsubi不動産 遠藤さん「本田さんが借りられる、かつ三浦さんにご納得いただける条件をつくることが、何より難しかったと思います。現場の状況と照らし合わせて、双方の想いに寄り添った現実的な提案がまとめられてホッとしています。不動産会社で実務経験のある熊田さんが、omusubi不動産とAXISさんの間に入ってくれたからこそ円滑に進んだ部分もあり、助かりました」

    これからにつながる「初めての事例」が自信になった

    ミライエ、AXIS、omusubi不動産の三者一体となることで実現した、借り手・貸し手の双方が納得できる、空き家のオリジナルな活用提案。関係者にとっても、初めてづくしの取り組みでしたが、今回の事例が自信となり、これからも同様の体制で空き家活用の事業を広げていきたいと熊田さんは声を弾ませます。

    本田さんはすでに写真館を引き継ぎ、事業の準備を始めたところ。新たなスタートに安堵しているみなさんに、今感じていることを聞きました。

    AXIS 菅野さん「一度空き家になった写真館が、同じ使われ方で息を吹き返すのがすごくいいなと思います。写真館がオープンすれば、コミュニティにもなっていくんだろうなと想像すると、不動産事業を通して地域貢献もできた嬉しい経験です。初めての仕事をした分、知識も増えたので、これから新しいお客様の力にもなっていきたいです」

    omusubi不動産 髙橋さん「今後同じような事例を増やしていければ、まちとしても活気が出てくると思いますので、その第一歩となるモデルを作れたことをとても嬉しく感じています。空き家所有者にも、100%良い状態の家でなくても貸せる可能性が伝われば、『私も貸したい』といった声も増えてくると思うので、そんなふうに広がったらいいですね」

    ミライエ 熊田さん「仕事を依頼するうえで、責任を負ってもらう怖さを感じることもありました。でも、三浦邸の事例ができたことで、今後違う事業者とチームを組むときにも前回のようにできるはずと思えるようになりました。ミライエのパートナー事業者は、菅野さんのように協力的な方ばかりです。引き続きomusubiさんにも力を借りながら、地元のみなさんとお客様をサポートできるように頑張ります!」

    後日談:本田さんの声

    振り返り後、熊田さんと菅野さんと一緒に、三浦写真館を訪ねました

    本田さんにも、物件契約の取引の感想を聞きました。

    本田さん「物件の内見~契約までは、ドタバタな部分はあったんですが体感的にはとてもスムーズでした!想定していたよりずいぶん早く物件が見つかった上に、状態も良く、写真館をそのまま借りれるとは思ってなくて、本当にあっという間でしたね。関わってくださったみなさんのおかげです。これから始まるんだなと身が引き締まり、準備など頑張っていこうと思いました!」

    「いつでもいらしてくださいね!」と素敵な笑顔の本田さん。応援しています!

    本田さんのように、少しでも気になる物件を見つけたのなら、ミライエに問い合わせてみてはいかがでしょうか。空き家の活用を通して新しいチャレンジや暮らしを応援する取り組みが広がることで、明るくなるまちの景色がありそうです。

    株式会社AXIS 代表取締役 

    南相馬市原町区に本拠を置く地域密着の不動産会社。ミライエのパートナー事業者。土地・新築/中古住宅・テナントなどの売買・仲介から、居住・事業用賃貸物件の紹介・管理、資産活用相談まで幅広く対応。工務店と連携し、リノベーションの提案や見積り作成などもサポート。

    omusubi不動産   

    「自給自足ができる街をつくろう」をコンセプトに、空き家活用を軸にまちづくりを行う“おこめをつくるフドウサン屋”。千葉県松戸市に本店を構え、DIY可能な賃貸の提供や空き家を活用したコミュニティづくりに力を入れており、入居者や街の人々と一緒に田んぼでお米を育てながら、暮らしを耕し、「顔が見える関係性」を育んでいる。2023年度よりミライエの事業伴走を開始し、2024年度からは空き家の流通支援事業にも注力している。

    南相馬市の空き家と住まいの相談窓口「ミライエ」 

    南相馬市から委託を受け2023年に開設。市内に点在する空き家・空き地の利活用をはじめ、相談受け付けから物件紹介、交渉、契約、改修・リフォーム提案、会員事業者とのマッチングまでをワンストップでサポートする。属性や立場もさまざまなスタッフが、顧客にあった提案をできることが強み。

    ミライエ担当者から一言
    本田さま、この度は物件決定おめでとうございます!本田さんが将来のことを話してくださる時のきらきらした笑顔がきっかけとなってうまれた物語。たくさんの人の願いと想いがこもった空き家再生になりました。これからの本田さまのご活躍に期待しています!頑張ってくださいね!
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