
南相馬市地域おこし協力隊に着任し移住してきた、音楽プロデューサーの小野雅也さんと建築家の中川雄斗さん。二人が住居兼活動の拠点として気に入った物件は、偶然にも隣どうしでした。以前はそれぞれ種苗店、薬局として住民が通ったこの場所に、新しい息吹が吹き込まれつつあります。
ハンバーガー屋の開業に向けてDIY真っ只中の「旧塩山薬局店」を訪ね、それぞれが物件を選んだ理由や、暮らしたり活動したりする中で感じていること、空き家の未来について話を聞きました。
プロフィール
小野雅也
音楽プロデューサー。音大卒業後、音楽活動を続けながら、首都圏にて飲食店経営やマーケティング業務を経験し、南相馬市地域おこし協力隊に着任。森の中に音楽劇場をつくるプロジェクトを進行中。
中川雄斗
建築家。一級建築士。東京の設計事務所勤務を経て、南相馬市地域おこし協力隊に着任し「UYNA/中川雄斗建築設計事務所」を設立。建築設計からリサーチ、まちづくりまで
建築と地域を相互に関係づけながら双方が場所と記憶に残り続ける「消費されない建築」を目指し活動中。
地域の人や仲間が集まれる「住まい」に暮らす

ーお二人は同時期に、入居されたんですか?
小野さん いえ、僕は移住して1年ほどは市営住宅に住んでいたんです。なので、入居は中川さんが先ですね。
ーそうだったんですね。それぞれ、こちらの物件に住むことを選んだ決め手はなんだったのでしょう?
中川さん 絶対条件だった「リノベーションをしながら住める賃貸」という条件をクリアしていたこと、それから不思議なつくりで面白い建物だったからでしょうか。1度建物の半分を壊して再構築しているんですが、階段が2つあって、それぞれの階段からしかいけない2階があるんです。小高の家の特徴でもある細長い家のかたちもユニークで、建物としてのポテンシャルを強く感じて決めました。

中川さんが建物の面白さを感じたポイントの数々
小野さん 僕は、住まいにこだわりのあるパートナーが納得できる家を探しました。僕自身は家に求める希望もほとんどなかったんです。
市営住宅に住める期間が1年と決まっていたので、その間に何軒か気になる物件をめぐりました。実は、中川さんが入居されたところも僕は気に入っていたのですが、先に決められちゃって(笑)この物件も、僕たちより先に購入を検討されている方がいました。でも、その方が別のところを選んだので内見させてもらったところ、素晴らしいなと僕は感じたんです。妻も、精一杯探したという過程を汲んでくれて、ここに落ち着きました。
ー入居後からこれまで、それぞれの物件でどのように過ごしてきましたか?
小野さん かつて薬局だった部分のスペースはこれからのために準備をしているところですが、今のところは自宅としての役割がほとんど。十数人は来てもらえるスペースがあるので、仲間を招いてお酒を飲んで楽しむこともあります。

中川さん 僕は引っ越してきた当初から事務所兼自宅として、ここで暮らしています。活動のテーマに「消費されない建築と地域をつくること」を掲げているのですが、その一環で、地域の方に集まってもらって昔の様子や風景を聞かせてもらう企画をひらいたこともありました。
小高や南相馬市で設計を任せてもらえた時には、かつての暮らしや風土、精神性も含めた地域の歴史を調べて、活かしたいんです。まだ着手はできていないのですが、家のリノベーションも、すでにあった記憶や風景を引き継いで設計から考えたいと思っています。
生活に支障がなければ、多少のトラブルは気にしない
ーどちらの物件も、東日本大震災以降、10年以上は空き家になっていたと思います。困りごとなく、すぐに暮らし始めることができましたか?
小野さん いや、わが家は残置物がとにかく多くて大変でした。その状態も理解したうえで購入させていただいたんですけどね。居住部分だけでも片付けてもらおうかと見積もりをとってみたものの、170万といわれてしまい、30万円分だけ依頼して残りは自力でやりました。妻がものすごく頑張ってくれて、近所の方たちにも手伝ってもらって。そう言いながら、僕は仕事が忙しくてほとんど手伝えなかったのですが……。
妻がアンティーク好きで、食器や家具などで使えるものを選びながら残すことができたのは良かったことかな。

「引っ越し後の片づけは妻のおかげで終わったようなもの」と小野さん

残置物の一部は現役で使用されている。取材時に出していだたいたお茶のグラスとお盆も
ー中川さんは賃貸でお住まいですよね。住み始めるときはどんな状況だったのでしょう?
中川さん 残置物はあったのですが、小野さん宅ほどではなかったと思います。それと僕の場合は、大家さんに片づけていただけるという条件での契約でした。
雨漏りしている箇所があるのですが、大家さんが処置をされていたため生活するのに困るほどの影響が出ているわけではないので、今のところはそのままにしています。雨漏りに限らず、空き家は天井や床を剥がさないとわからないトラブルが潜んでいる可能性があると考えています。僕が建築家だから思えることかもしれませんが、問題が起きたら都度直すつもりで住んでいます。

中川さん。家を見るときには「天井を剥がした時に見える構造」をおもしろがって見ているそう
家の状態をみながら、買い手と家主が納得できる価格を決めていく
ー賃貸 / 購入の契約を結ぶまで、ミライエとはどのようなやり取りがあったか教えていただけますか?
中川さん 物件が決まってから、ミライエさんには担当の不動産屋である東邦不動産さんにつないでもらいました。その後は東邦不動産さんが所有者さんとの間に入り、契約から入居までスムーズなやり取りをしてくださいました。残っていた家具の中に使いたいものがあったので、お譲りいただけないかという交渉もしていただきました。
小野さん 僕は購入だったこともあり、大家さんとの内見や契約内容の調整するのにミライエさんにお世話になりました。僕の購入希望価格と大家さんの売りたい価格、家の状況などを見ていただきながら、価格のすり合わせをしてもらえたのは助かりました。ご担当いただいた不動産屋は協心さんです。
ー小野さんが家を購入する際、交渉したことはありましたか?
小野さん 水道、ガス、電気が通るかの確認と保証を依頼しました。できない場合は減額してくださいとお願いしたんです。結果、全てが問題なく使えていたことがわかり、入居後も不具合なく使えているので、インフラのチェックはやって良かったですね。
あとは残置物のことぐらいかな。結果的に、最初にご提示いただいた価格からかなり抑えられた金額で購入させていただくことができました
日夜で表情の変わる「ハンバーガー屋ときどきライブハウス」を準備中
ー薬局だったスペースは、工事がガシガシ進められていますね。これからどんな場所になっていくのでしょう?
小野さん もともとは、僕のメインプロジェクトである森の音楽劇場につながるような、音楽ができるまちの拠点を考えていたんです。でも最近、ハンバーガー屋をやりたいっていう音大の同級生、橋本恭佑さんが南相馬市に引っ越してくることになって。じゃあ、ここでやってみる?と話が進み、彼にハンバーガー屋をやってもらいつつ、僕はたまに音楽ライブをできるような使い方ができるように、リノベーションを進めています。

写真右側に映っているのが橋本さん。電気工事士の資格も持ち、日々DIYを進めている
ーリノベーション設計は中川さんが担当されているのも面白いですよね。どのように進められているのでしょうか?
中川さん 建物の状態を見ながら計測することから始まり、図面に起こして設計をして、工事をしているのが今の状況です。
設計をするために、ヒアリングもたくさんしました。間取りの希望だけでなく、場所の在り方そのものや、どんなライブをしたいのかとか。つくっている空間には、ハンバーガー屋のオーナーになる、橋本さんから聞く想いがしっかり含まれています。
ランチ時の昼には、外から声かけられたらすぐ反応できるようなオープンな感じ。逆に夜、ライブをしたりお酒を飲んだりする時には、ちょっと内側に閉じた空間にしていけたらなと。
小野さん 近所の方を呼んで、かつてこの辺りにあった居酒屋の雰囲気や音楽文化について聞くこともしたよね。中川さん、何百パターンも設計を提案してくださったんですよ。すごいですよね。
ー小野さんがこだわったポイントはありますか?
小野さん ないんですよ。ハンバーガー屋も、家を買った後にやりたい人と場所があるからやることになったように、あるものでどうにかできないかを考えるタイプなんです。それに、素人の僕がパッと思いつくものよりも、何百パターンものプロセスを経た中川さんの提案の方が良いでしょという気持ちもありました。
ただ、僕には飲食店経営や舞台設営の経験があったので、調理や舞台の導線を考えるときには積極的に意見を出しました。
中川さん お話を聞く中で、小野さんは自分の気持ちより、お客さんや演奏者の希望に寄り添うことを考えているのだろうなと僕は感じています。舞台を動かせるとか、照明の明暗を調整できるとか、食べながらステージを見れるようにしたいとか。
小野さん 確かに、それは言ったかもしれない。
中川さん なので、なるべくフレキシブルに空間を使えるように設計しています。

ー最後に、空き家に住んだり活用したりすることを検討している人にメッセージをお願いします。
中川さん 新築でも、住み始めて見ないとわからない不具合はあるものです。僕としては、ライフスタイルもどんどん変わるものだと考えているので、今暮らせるのなら問題なしくらいの気持ちで、空き家を住まいにするのもいいんじゃないでしょうか。
設計をする視点から考えると、既存の建物をつくった人の意図を読み解きながら、それを上手に生かして次はこうしてみよう、みたいな対話みたいなのが生まれるのも面白いです。材料が時間を吸収して、新しいものじゃない表情を獲得している。そういうのは新築では得られない価値だと思います。
小野さん 家の金額がどうやって決まるかを自分で調べることはできても、理解して提案することは素人にはなかなか難しい。だからこそ、宅建士の資格を持つスタッフもいるミライエさんが、購入者と家主のどちらもが納得できる金額調整をしてもらえたことは、契約するうえでとても心強かったです。幅広い空き家に関する相談にのってくれるので、お悩みがある方はぜひミライエさんへ行ってみてください。
中川さん 今、宅建士の資格取得に向けて勉強もしているんです。将来的には、設計の前段階である家探しからお役に立てるようになりたいと思って。僕にしかできない南相馬や小高らしい家やまちづくりができる建築士としてとして頑張っていきたいと思います。


ミライエ担当者から一言



